事業のポートフォリオ
2013年3月、安部首相を議長として設置された産業競争力会議において、今後5年間を「緊急構造改革期間」と位置づけ、集中的に改革を行うことなどが策定されました。この会議で茂木経済産業相は、2020年の日本の産業構造のあるべき姿をこう明言しています。それは、開廃業率の引き上げや戦略分野への集中、組織再編、事業ポートフォリオの組み換えなどによって強者を育成し、世界のトップたる企業を増やすことです。そうした目標を達成するため、政府は、複数の事業を統合して過剰供給能力を解消し、事業・産業間で設備や人材が円滑に移動できるようなコスト軽減や税制、規制面での支援を行うとしています。こうした政府の動きを機敏にとらえ、持続的な企業価値の向上を目指すためには、いまこそ選択と集中を実行し、事業ポートフォリオの再構築に取り組むチャンスなのではないでしょうか。
事業ポートフォリオの最適化
事業ポートフォリオとは、企業が複数の事業を営む状態や、その事業の組み合わせのことで、我が国で事業ポートフォリオという概念が広まったのは、2000年の連結会計制度の導入時となります。企業はその経営戦略に応じて、リスク分散や事業間のシナジーを得るために事業の多角化を進めることがありますが、市場の変化についていけず、コングロマリット・ディスカウントによる多くの損失を抱えてしまう場合もあります。そうした事態を避け、戦略的観点から経営資源の配分がもっとも効率的になるよう、多くの企業が事業ポートフォリオの最適化を目指すようになりました。
将来にわたり最適な事業ポートフォリオを実現するためには、市場や産業の成長性などの外部変数と、自社の優位性や競争力などの内部変数といった2つの視点から、各事業や製品を評価し、その進退を決定することが求められます。そのため、まずはマーケットと企業内部についての厳格な現状分析が必要であり、現状分析に用いられることが多いのは、プロダクト・ポートフォリオ・マネージメント(PPM)といったフレームワークです。PPMとは、多角化戦略を支援するために開発された経営分析手法で、その特徴は成長率とマーケット・シェアのマトリックスで事業を位置づける点にあります。こうしたフレームワークを活用して現状を分析し、事業ごとの収益性や成長性、キャッシュフローなどの財務を評価したうえで、その後の事業ポートフォリオのあるべき姿が見えてくれば、もっとも効率的な経営資源の配分方法も決定するのです。
事業ポートフォリオの最適化のためには、ときに、M&Aなどの戦略的な経営方針が求められる場合もあり、国の支援が追い風となる今こそ、厳しい選択を躊躇なく実行するための事業ポートフォリオが必要となるのです。