埋没コストとは
「機会コスト」と並び、管理会計で取り上げられることが多いのが「埋没コスト」という考え方。経営判断を求められる方にとっては、この埋没コストが悩ましい存在となることもしばしばあるのではないでしょうか。サンクコスト効果の悪しき影響に判断力を鈍らせることのないよう、その実態をきちんと理解しておきたいものです。
管理会計の特殊原価・・・埋没コストを知る
すでに発生していて取り戻すことのできない費用や、発生することが確定していて、どのような選択肢であっても発生する費用のことを埋没コスト(サンクコスト)といいます。埋没コストとは、過去において事業に投下した資金など、すでに支出が行われているものであり、現在の意思決定には影響のないものです。
しかし現実には、この埋没コストが後の経営判断に影響を及ぼすことがよくあります。合理的な判断のもとでは影響を与えるものではない埋没費用という存在が、経営者の心理に働きかけ、その判断力を鈍らせてしまうようなことを「サンクコスト効果」といいます。
例えば、すでに5億円を投資している事業があるとします。この事業を継続するとさらに2億円の損失が見込まれ、この事業をすぐに中止すれば、追加の損失は1億円で済むものとします。
この場合、合理的な経営判断のもとでは、損失の少ない事業中止が選択されるはずです。しかし、これまでに投じた5億円の埋没費用を考慮にいれることで、「あれだけの投資を行ったのに」といった心理的な影響が働き、事業中止の判断がつきにくくなってしまうことがあります。このように、埋没コストについて考慮することで、経営者の合理的な判断力を鈍らせてしまう場合があるのです。
合理的な経営判断を行うためには、このようなサンクコスト効果を払しょくする必要があります。埋没コストはすでに発生してしまった費用であり、現在の意思決定には、今後発生する費用と利益だけを判断基準とすることが望ましいのです。
事業を見直し、あらたな決定を下す際には、それまでの苦労や投資額など、経営者の脳裏にはさまざまなことが浮かぶもの。失敗をすぐには認められない場合もあります。けれども、過去の失敗は、それを取り戻すことに終始するためにではなく、新たな意義ある選択のためにこそ役立つもの。このような時こそ、埋没コストの意義を見直し、その後の意思決定に役立てることが重要なのです。