知識と経験を捨てる
先を見通すことのできない経済動向に我を忘れ、打つ手を見失った経営者に必要となるのは、通用しなくなった知識と経験を捨てる勇気です。オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは持論であるイノベーション理論を軸として、経済活動における新陳代謝を創造的破壊という言葉で表現しています。非効率な古いものはより効率的な新しいものによって駆逐されていく。それこそが経済発展のしくみであると。
経済を発展させる創造的破壊のためには、不況や倒産なども必要なもの。個々の企業活動においても通用しなくなったビジネスを放棄し、ゼロからの再スタートが必要になることがあるのではないでしょうか。
これまで拠り所としてきた法則から脱出すること、そして原点に立ち返ってみることこそが新たな価値の創造を生み出すスタートとなるのです。
ゼロから出発して成功した企業の法則
日本経済を支える企業のなかには、破壊から価値の創造へと甦りを果たした企業が数多く存在しています。今回はそうした企業をいくつかご紹介してみたいと思います。
まずご紹介したいのは、日産のリバイバルプラン。2兆円もの有利子負債を抱え、国内シェアが12%にまで落ち込むという経営の危機にあった日産は、1999年にカルロス・ゴーン社長が就任してからまさに創造的破壊といえる大胆な変革に着手して見事再生を果たしました。
つぎにご紹介したいのは、映画『フラガール』でモデルとなっている常盤興産の事例です。1962年の原油輸入自由化の際に炭鉱会社である常盤興産は、新規事業として「常磐ハワイアンセンター」を開業。それまで既に慢性的に不振であった経営の立て直しをはかるべく、ゼロからのスタートに賭けたのです。それまでの経験や知識を捨て、炭鉱業から観光業への転身をはかり、見事に価値創造を実現しています。
現代の経営者には、収益の上がらなくなった非効率なビジネスや組織にいつまでも執着している余裕はありません。IT化やグローバル化によって加速するスピードに追い付いていくためには、常に迅速な判断と行動が求められているのです。
創造的破壊によって再生への道を歩んでいる企業をお手本として、ときには自ら既存の価値を破壊する覚悟を忘れないでいただきたいと思います。