複雑なことを単純に
三井石油化学工業やボストン・コンサルティング・グループなどを経て、現在、株式会社ミスミグループ本社会長を務める三枝匡氏。企業再生活動やベンチャー投資など、多岐において実績を誇る三枝氏は、日経ビジネス誌上で、「優れた経営者は、混沌を単純化する能力に長けている」と述べています。複雑なものごとを単純化して思考することは、問題の本質をつかみ、組織の方向性を決定する際に役立つ合理的な思考法であり、経営者には欠かせない資質です。しかし一方では、単純化し、標準化することで生れる弊害も。行きすぎた単純化は、他社との差別化、差異化をなくしてしまう原因となり、陳腐化のはじまりともなりうるもの。ここでは、経営者に必要な単純化による論理思考について、考察してみたいと思います。
ものごとを単純化して考える抽象化思考
ほかのコラムでもご紹介してきた業務改善や成長戦略立案のために活用できる思考法。ひとつは、現状を網羅的に分析するために役立つフレームワーク思考。目的にあったフレームワークを用いることで、論理の穴をなくし、より大きな視点でものごとを捉えることができます。もうひとつは、ものごとを結論から考え、さまざまな検証を重ねていく仮説思考。限られた時間のなかで素早い決断を迫られる経営者には、不可欠な思考法となっています。
このふたつの思考法に加えて活用していただきたいのが、ものごとを単純化して考える抽象化思考です。抽象化するということは、難しいことを簡単に、複雑なことを明快にとらえ、思考する能力を鍛えるということ。抽象化して思考し、それを具体化して応用することで、あらゆる局面に柔軟に対応することができる、マクロな視野をもつことができるのです。
ただし、抽象化思考には注意も必要です。それは、複雑なものごとを単純化する過程には、細かな現実をそぎ落としていかなければならないこともあるという点です。まずはシンプルな視点で、ものごとを見極めてみる。そのうえで、未解決の枝葉にも取り組むため、フレームワーク思考や仮説思考を組み合わせて活用することが重要なのです。そして、このような思考法から導かれる論理を重視しつつ、経営者としての直観とのバランスを失わずにいることが、問題解決への近道となります。