将来の方向性の決定
2015年6月15日の会見で甘利経済再生担当大臣は、今後の財政再建策について「経済再生なくして財政健全化なし」とあらためて強調しました。また6月の月例経済報告については「設備投資について若干、回復の兆しが見えてきた」との認識を示したうえで「経営者の背中を押す取り組みを続ける」とし、企業の設備投資や研究開発費を加速させることに期待感を示しています。
4月から6月の企業景況感が4期ぶりに悪化するなか、政府の新たな財政再建が持たれるいまこそ経営の舵取りの手腕が問われるとき。より積極的に経営ビジョンを打ち出すべきときなのではないでしょうか。
まずは経営環境を把握すべし
社会の要請に応えつつ実利を生む経営を実現するには、業績の維持や向上策、CSR活動に励むだけでなく、自社の将来への方向性を展望する目を持たなくてはなりません。企業の方向性を定めていくということ。それは経営者にとってもっとも重要な役割なのです。
将来の方向性を決める際に大切なのは、経営者自身の人や物事に対する見方や考え方、歴史や社会に対する認識、世界情勢についての見識など。その人生で培ってきた自然観や人生観、家族間、死生観、世界観などを総合して大局的な見地に立ち、そこから経営ビジョンを導き出すことです。
まずは自らの拠って立つ足場をいま一度省みること。そのうえで足りないところがあれば、人に教えを請うなり、読書するなり、世界を眺めてみるなどして、見識を深める努力をしましょう。
経営者の個性や見識によって将来の方向性が導き出されたあとは、その成功度を高める取り組みが必要です。目指すべき市場でいかに自社の競合優位性を発揮するか。そのためには2つの取り組みが必要です。
新たな事業展開を考えているのであれば、まずは自社のポジショニングを見定めましょう。ポジショニングを明確化するには、競合関係や顧客の分布状況から市場の成長性や自社の強みを判断することが重要。自社の独自性を発揮できるよう事業領域をずらしたり、市場を詳細にセグメント化するなどして、優位性を保つことのできるポジションを明確にしていきましょう。
つぎに取り組んでいただきたいのは、買い手や取引先、競合相手、新規参入者、代替品といった事業に影響する5つの要因について分析すること。この5つの要因における自社の強みや弱みを分析して検討したうえで課題を洗い出し、その改善策を打ち出していくことで、今後の事業展開の可否を見極めることができます。
方向性が決まり、事業展開を進めていくうえでもっとも重要なのは、経営環境を把握しておくこと。自社をとりまく経営環境を見極めることで、進むべき道や展開すべき事業内容がおのずと見えてくるはずです。
経営環境を把握する際に助けになるのが、3C分析やSWOT分析といったフレームワークです。3C分析というのは、自社と顧客、競合相手といった3つの関係を分析して事業展開を考えるもの。SWOT分析というのは、自社の現在の強みや弱みだけでなく、潜在的な機会や脅威についても分析して経営環境を把握するもの。これらのフレームワークについては、当カテゴリーの別コラムでも取り上げていますので、興味のある方は参考にしてみてください。
自社の方向性を定めるのは経営者の大切な役割ですが、さらに重要なのはその経営ビジョンをすべてのステークホルダーにアピールして共有すること。そのようにしてはじめて単なる経営ビジョンが、自社の明るい未来へとつながっていくのです。