人事デューデリジェンス
経営が順調な企業ほど、経営陣はこれから先の打つ手について考えあぐねていることと思います。取引先の銀行から新たな融資を勧められても、設備投資の予定はないし、有効な投資先も見当たらないし・・・と、悩んでいる経営者の方は多いようです。
そのような中、最近では「ROEを上げなければ」と、内部留保を使った企業買収や自社株購入をする企業も増えています。投資やM&A、株主還元など、より積極的な経営方針へと方向転換を目指す経営者の方も多いのではないでしょうか。
M&Aを実施する際には、事業モデルや事業戦略、財務や経理、税務課題などの現状とリスクについて、徹底的に調査し、分析することと思います。なかでも今回ご紹介したいのは、人事デューデリジェンス。買収相手の組織と人材面でのコストやリスクを洗い出し、現状把握を行うための方策についてご紹介してみましょう。
M&Aを成功に導く人事デューデリジェンス
これまでわが国で行われるM&Aにおいては、人事デューデリジェンスが見過ごされがちな傾向にありました。それは国内の企業であれば、相手の組織や人事マネジメントも想定の範囲内であることが多かったため。でも最近、日本企業がグローバルM&Aを実施するケースが増えたことで、人事デューデリジェンスの重要性が認識されるようになっています。
M&Aを実施した企業CFOを対象とした調査によれば、M&Aが失敗する原因として、相容れない企業文化や相手を管理する能力の不足、変革実行力の不足をあげる方が多かったそうです。M&Aを成功に導くためには、企業風土の融合や人事マネジメントの統一など、人事的なデューデリジェンスが必要不可欠なのです。
買収相手について調査する際には、①人事制度、②リーダーシップ、③組織運営といった3つの側面から現状を把握し、そのコストやリスクを洗い出す必要があります。
①人事制度
企業の人事制度では、給与や賞与だけでなく、福利厚生をも含めた総合的なコストを洗い出す必要があります。ほかに退職債務や年金についての調査も必須。買収相手の社会風土や宗教慣習などについての企業負担やリスクについても調査・分析する必要があります。
②リーダーシップ
相手組織の人事マネジメント手法、リーダーシップをとれるキーマンの所在を明らかにする必要があります。過去の幹部人事、現幹部の動きなどを把握するためには、幹部社員への個別の聞き取り調査をすることが有効です。
③組織運営
人事部門スタッフへのヒアリングや幹部社員への聞き取り調査の結果を分析することで、企業文化を把握することができます。相手企業と自社とを比較することで類似点や差異を認識し、新たな組織を作るうえで参考にすることができます。
M&Aを成功に導くには、上記のような人事デューデリジェンスをすすめると共に、経営幹部の契約更新といった人材の維持と確保についての方策も進めなければなりません。経営権の移行に伴って必要な人材が流出してしまうことのないよう、魅力的なビジョンやインセンティブが必要になる場合もあります。